みなさんこんにちは。斎藤牧子です。

 熱海のみならず、至るところで花々咲き誇る春がやってきましたね。そんな3月21日土曜日、熱海が誇る近代建築「起雲閣」にて、第3回熱海写真俳句ストーリーコンテストが行われました。はい、拍手!

2015-contest-01 この日は、冬が名残を惜しむようなあいにくの小雨模様でした。起雲閣についたえりちゃんと私は、裏の入口からお邪魔します。と、若いカップルのお客さんと目が合いました。きっと普通に観光しにきた人たちね。こんなところから入ってきて、何なんだろうって不思議そうな顔だけど、えっへん、今日は素晴らしいイベントがあるのですよ、とはいわなかったけどサ。

 熱海といったら起雲閣は外せないところですよね。ここは、1919年政財界の重鎮だった内田信也氏が別荘を構えたのがはじまりでした。その後、鉄道王の根津嘉一郎氏の手に渡り、1947年にはみなさまご存知の志賀直哉や太宰治、谷崎潤一郎といった名だたる文人に愛された旅館になります。大正時代の和室(設えもそうですが、窓ガラスもまた素晴らしいの)や、贅を尽くした洋室(サンルームなんてあるんですよ)が良き時代に浸らせてくれるんですよねぇ。いくつかの棟や門は、市の有形文化財になっています。

 このコンテスト、そんなすごいところで行われるんですよ。会場の音楽サロンの窓からは大正の趣きを残す家屋の、雨にしっとり濡れて美しい姿を見ることができます。なんとも俳句の催し物にぴったり。

2015-contest-02 えりちゃんと私、開始のちょっと前に会場入りして、森村誠一先生の控え室にお邪魔しました。そしたら先生、窓辺に凛として立っていらっしゃった。その伸びた背中がこれまでの作品の数々を物語っているようで、なんともかっこよかったなぁ。ああ、写真を撮っておけばよかった。宝物にしたのに。

 開場まで先生を囲んでおしゃべり。その中でも、子どもたちがケイタイばかりして本を読まないでいた場合、その最も危険なことは思索をしなくなることだというお話に、えりちゃんと私、実にその通りだと感心しながら聞き入ってしまいました。

 私たちが歓談している間に、この催し物について説明をしましょう。今回で第3回を迎えるこのコンテスト、北海道から九州まで(!)、日本全国から総計239句もの応募があったそうです。部門は二つに分かれていまして、熱海の梅もしくは桜を題材にした課題句部門と、梅および桜を謳っていれば場所は問わない自由句部門があります。それぞれ、125句と114句が寄せられたということで、半々くらいの割合かしら。この中から、先立って選考が行われ、課題句と自由句のそれぞれで、10句ずつが入選作として選出されています。

 普通コンテストといったら、例えばアカデミー賞とかですと、発表の場に来たときには既に結果が決まっているものじゃないですか。だからノミネートされた人は、誰が賞を取るかやきもきしながら見守ることしかできません。だけどこのコンテストは違うんです。会場にいらしたみなさんも審査員。紅白の旗をあげて、審査に参加します。自分の選んだ句が優秀賞になるかどうか、こちらもどきどき。

 その他、参加者の審査とは別に、市長賞2句と森村誠一賞1句が選ばれます。

2015-contest-03 開始近くになって森村先生の後に続いて1階の会場に行ってみると、みなさん続々と集まってきていました。その手には紅白の旗。私もえりちゃんの分と一緒に貰いに行きます。えりちゃんは、今回の記録写真をあの素晴らしいカメラで撮る係なの。廊下の壁には、熱海写真俳句撮詠物語のみなさん(いつもお世話になっている方々です)のパネルが貼付けられていました。気分が盛り上がりますね!

 1時半になり、開演となりました。総合司会は熱海観光協会の可愛らしい小松さん。まずは熱海市観光協会長の中島幹雄さんのご挨拶です。

 


 

2015-contest-04 中島さん「みなさま、本日はようこそお越し下さいました。今年の梅園の梅まつり、糸川さくらまつりは、雪だった昨年と違ってお天気に恵まれ、梅園においては20万を超えるお客さまにおいでいただきました。今回の作品は素晴らしいものが多く、市長賞を選んだ斉藤市長も、どれにしたらいいのかと苦労をされたと伺っています。本当に優れた作品の数々を、ありがとうございました」

 それから、斉藤市長から賜った挨拶文を、熱海市観光建設部長の出野武彦さんが代読してくださいました。

 


 

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 出野さん「今回のコンテスト開催にあたり、ご協力くださったみなさまに感謝を申し上げます。今年はどのような素晴らしい作品が、梅園の梅と糸川の桜の美しさを内外に発信してくださったのか、非常に期待しておりました。昨年の熱海は294万人の宿泊客をお迎えし、また梅まつりはこれまでで最高の入園者に来場していただくことができました。みなさまには、今後も熱海の魅力を写真と俳句に乗せて、全国に発信していただけるようお願いを申し上げる次第でございます」

 


 

2015-contest-06 その後、審査会の進行を俳句編集者の山口亜希子さんにバトンタッチ。山口さんがおっしゃるには、全国には写真俳句の催し物がいくつかありますが、その第一人者である森村先生が直接いらっしゃるのは、ここ熱海の写真俳句コンテストだけなんですってね。特別感満載だなぁ。

 さて、このコンテスト、先ほども申しましたが、その場で審査をするんです。課題句部門、自由句部門それぞれの入賞者が、紅白に分かれて1対1で対決。発表者はそれぞれ、作品にまつわる想いの丈を会場のみなさまに伝えます。その後、参加者はどちらの俳句に、それにまつわるストーリーに、あるいはその写真に心動かされたかを、紅か白の旗をあげて判定します。多くあがった方が優秀賞。先生や来賓の方も、参加者と同じ清き一票です。

 その場で決まるんですから、心臓ばくばく、緊張しちゃう。私だったら、前に立って喋るなんてとてもできないな……。しかしながら、入選者ともなれば読み手はさすが勇敢です。マイクを渡されると、凛とした声で自分の作品についてをお話されるのです。すごいなぁ。

最初の対決は紅が静岡県田方郡の澤村正紀さん、白が東京都小金井市の清水千賀子さんでした。紅が向かって左側、白が右側です。

2015-contest-07澤村さん「『白梅の奥に紅梅石畳』。初めて梅園に入った日に撮った写真です。ずっと近くを通りかかっていたのですが、この40年、足を踏み入れることはなかったのです。今回初めて来場し、これが初めて梅を詠んだ作品となりました」

清水さん「『梅の香を纏ひ少女に戻る旅』。友人三人と熱海梅園を訪れ、満開の白梅、紅梅を見て、家にあった梅の木を思い出しました。父や母、その後の人生など考えもせずに駆け回っていた私。幼い日の幸せを思い起こしながら、この一句を作りました」

 


 

 その後、質問タイムがあって、判定となります。山口さんの合図と共に、参加者は皆、紅か白のどちらかの旗をあげるのです。さて、自分の選んだ色の方の句が優秀賞に選ばれるかどうか……。

「あ、どっちでしょう。これは白……でしょうかね」

(どっちだか分からない! という場合は、公平を期すために、カウンターを持ったスタッフがいらっしゃって、旗の数を数えます)

2015-contest-08山口さん「ありがとうございました。優秀賞は白の清水千賀子さんとなりました」

 みなさん拍手。そして、森村先生からコメントを頂きました。

森村先生「俳句には、芭蕉の『夏草や兵どもが夢の跡』といった時間を謳った俳句、そして角川春樹さんが牢獄で詠んだ『そこにあるすすきが遠し檻の中』といった空間を謳った俳句があります。そういう意味では、今回の澤村さんの句は空間を、清水さんのは時間を謳った句ですね。どちらも俳句というものの核を掬い取ったすばらしい俳句だと思います」

 


 

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 コンテストはこのようなかたちで進んでいきます。内容が濃いでしょう? ほんと、充実した1日だったんですよ。最後のオマケまでお送りしますので、どうぞ次回以降をお待ちください。それと、森村先生やみなさま方のご発言は、端折りまくってずいぶん省略しておりますことをご了承ください。

続く・・・

 


 

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