みなさんこんにちは。斎藤牧子です。

 熱海の歴史的建造物&素晴らしい観光名所である起雲閣にて行われている写真俳句ストーリーコ ンテスト、課題句部門が終わり、いよいよ自由句部門に突入です。会場は更なる盛り上がりを見せ、熱気は最高潮!(実際、ほんとにあつかったんです。当日は 細い雨が降っていて外は寒いくらいだったのに)

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 全国各地の梅と桜を対象にした自由句部門、最初の対決は東京都中野区の桐山陶子さんと石川県金沢市の酒井和平さんです。残念ながら、このお二方は本日お休み。なので、山口さんが代読をなさいました。

山口さん「まずは桐山陶子さんから。『梅匂ふ芙美子の庭に下駄の音』 芙美子記念館は『放浪記』、『浮雲』などで知られる林芙美子が格別の思いを込めて建て た場所です。私は俳句を詠めなくなると、新宿落合にあるこの記念館を訪れては、風の音や鳥の声に耳を澄ませます。そうすると、芙美子の下駄の音が聞こえて 来る気がします。見れば、満開の白梅。紅梅の薄桃色の花も咲き始めていました」

山口さん「次は酒井和平さん。『笛の音は佐橋なにがし朧月』  満月と満開の桜を見ると、佐橋甚五郎を思い出します。仲間を刺し殺した佐橋は、命乞いの代償に難壁の城主殺害を命ぜられ、小姓として入り込みます。満月 の夜、笛を吹く城主を殺害。物語はその後も続くのですが、この句は宴の笛のシーンです。写真俳句は物語性の表現に適しているのではないでしょうか。佐橋甚 五郎の物語を知らずとも、月と桜の背後にある事件の感じが伝われば幸いです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA ご本人がいらっしゃらない中の判定。私も、紅と白の旗を持ち替えたりしながら、しばし思案します。ほんと困っちゃうんだよなぁ。どっちも小説に関連してて好みだし、句もいいし。

山口さん「では、判定をお願いします。……若干白が多いでしょうかね。では、白の酒井さんの勝ちです。今回は、お二人とも不在ですので、講評は割愛をさせていただきまして、二組目に映らせていただきたいと思います」

(ちなみに、あまりの熱戦により、この時点で時間はかなり押してます)

 2組目は、東京都文京区の丸山清子さんと福井県敦賀市の岡本海月さんの対戦です。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA丸山さん「『梅愛づる近きこゑやや遠きこゑ』 俳句をはじめてから1年ですが、作句していると小学校1年の時に亡くした母のことをよく思い出します。この写 真は、梅で有名な湯島天神にひとりで吟行に赴いた時のものです。近き声は、受験の合格祈願や梅を愛でに来た方、やや遠き声はその時聞こえたような気がした 母の声として詠みました」

岡本さん「『花散らし風は小貝の散る浜へ』 西浦地区にある常宮神社は安産の神様。去年の桜の時期、娘の出産のお 礼参りに出かけた折に近くの浜で小貝を拾いました。風が桜の花びらを浜辺まで運んできたのです。芭蕉が『浪の間や小貝にまじる萩の塵』『小萩ちれますほの 小貝小盃』と詠んだ色が浜は、常宮の先にあります」

 そして、判定です。会場の左横に座っていてらっしゃる審査員の方々も、うーん、と難しい顔で悩んでおられます。

山口さん「白……のようですね。白の岡本さんの勝ちです」

観 光協会長の中島さん「丸山さんは俳句をはじめられて1年ということなのですが、よく勉強をされているなぁと関心いたしました。『遠き声』が本当に聞こえて くるような句だったと思います。岡本さんの方も、写真は何気ない風景なのですが、俳句と合わさるととても奥深い趣きとなって感じられました」

森村先生「優れた俳句ばかりだったので、すべての作品に本句取りをするとなると、大変……疲労困憊(おどけた調子でおっしゃったものですから、会場のみなさ ん、思わず笑っていらっしゃいました)。僕は俳句を作るときに自分なりのモットーがあります。例えば『初雪や二センチ積もって消えにけり』と詠んでも誰も 感動しませんよね。そこには説明と報告しかないからです。俳句には、その中に人生や心、思い入れといったものを含めるべきだと思うのです。言葉に生命を吹 き込むと俳句になるのです。先ほど申し上げたものをどうしたら生命のある俳句にできるか、みなさんにお伺いしてみましょうか」

 と、突然の問い掛け。だけど、俳句なんてそんなすぐに作れません……。そこに、勇敢な方が手を挙げられました。

林田さん「『初雪や積もる気なくて消えにけり』。いかがですか」

森村先生「よくなってるんじゃないですか。では、こんなのはどうですか。『朝起きて顔を洗って出社せり』。この句に命を、あるいは覚悟を吹き込んだ俳句にし てください」(と問い掛けられたのですが、時間があまりありませんので……と声がかかりました。ほんと、時計の進みの早いこと早いこと……)

森村先生「では、雪の方から申し上げますと、元の句を『積もるまで雪の命や音もなく』と変えました。積もるまでが雪の命で、止んでしまったらあとは雨に変わ るだけ。雪に命が吹き込まれて擬人的になり、単なる報告や説明ではなくなりました。『朝起きて~』の方は、『霧たつや(あるいは霜たつや)昨日を拒む今朝 がある』。その人の覚悟や心構えが歌われていますよね。みなさんが今日ここで発表された句はそれぞれ、なんらかの心があり、魂があり、思い入れがあり、人 生があった。そしてそれらを表現する描写がある素晴らしい俳句が集まったと思います」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 心に魂かぁ。そうか、いい俳句が心に沁みるのは、そういったものがあるからこそなのですね。ちゃんとメモしておこうっと。書き書き。

 さて次は3組目。紅が埼玉県比企郡から永木宏さん、白が埼玉県北本市から萩原陽里さんの対決です。

永木さん「『連れ立って花を見に行く撮りに行く』 家から1キロほどのところの川の両岸の土手に桜並木があります。そこを訪れたとき、下流の一番端の、その 角度では桜が収まらないという場所で、若いカップルがお互い写真を撮り合っているのを見かけました。この二人は、桜を撮りにいくのではなくて、それぞれの 写真を撮りたかったのかなという気がして、この句を作りました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA萩原さん「『願い事聴きて夜の梅ほの紅し』 北本市には旧中山道が通っていまして、そこに面したところに天神社があります。真夜中にこれからの自分の生き方 を考え、決意を胸に天神社に行ったんです。境内でふと振り返ると、細い枝に抱きかかえられた牡丹雪のような、あるいは夜空の星座のような梅がありまして、 私の願い事をすべて聞いてくれるように感じました」

 どちらも埼玉県からのお越しです。それにしても、梅も桜も、日本全国を彩りよく、そして万遍なく染めるのですねぇ。

山口さん「では、判定をお願いいたします。……えっと、白ですかね。では、白の萩原さんの勝利です」

 そして、審査員の方々から講評をいただきます。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA観光建設部長の出野さん「永木さんの作品は、楽しそうな雰囲気が、写真と俳句とマッチしているように感じました。萩原さんの作品からは、梅を背景にどんな願い事をしたのかなと、そういったことを考えました。どちらも素晴らしい俳句だったと思います」

森村先生「萩原さんの写真俳句は、とても観察が細やかで感心しました。これから刺激を受けて本句取りをしましたが、非情に難しかったです。『願い事盗み聞か れて梅あかし』。梅は本来薄紅色なのですが、願い事を盗み聞きして恥ずかしくなったという風景を連想してみました。といっても、この句はもう少し磨きたい ですけれどね。俳句というのは磨けば磨くほど素晴らしいものになりますが、今日の本句取りはどれもこの場で作ったものばかりなので、まだ磨いていない状態 です。そのつもりでお聞きくださると幸いです。永木さんの俳句からは、本句取りではないのですが、熊谷の歌人安藤野雁の『酔いみだれ花にねぶりし酒さめて さむしろ寒し春の夕風』という短歌を連想しました。永木さんの写真の場所で酔い乱れて寝てしまったら、さぞやすばらしい夢を見たのではないかと思います」

 先生、実にすらすらと短歌を暗唱されましたが、私は恥ずかしながら浅学でして、……調べました。

  安藤野雁は江戸後期1815年生まれの国学者で歌人。1857年に亡くなるまで、貧しく不遇だったにも関わらず歌を作り続けられたそうです。先生のおっ しゃっていた短歌は旧熊谷堤の桜並木で詠んだもので(一字一句間違いなしでした)、そこは江戸時代にも全国に轟き渡った桜の名所でした。桜は現在、当時と は場所を変えて植樹されていますが、毎年多くの人で賑わうそうです。

 

 次は4組目の対戦ですね。東京都中野区の山内修司さんと石川県小松市の牧田竜太郎さんです。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA山内さん「『自転車のペダルに油春告草』一昨年、義父と義母を梅の時期に亡くしました。意気消沈していると、朝日を浴びて梅の花が輝いて咲いているのが見え ました。幹が腐って丈を詰めたため、花が咲くとは期待していなかった木です。なのに、気丈に花をつけた。私はおかげで気持ちを持ち直し、体を鍛えて、それ に前向きな心を乗せれば、健康な日々を過ごせるだろうと考えることができました」

牧田さん「『もう少し歩いていよう花並木』 私は健康改善 のためにウォーキングをしていて、木場潟公園をホームグラウンドにしております。ここは写真を撮るにも格好の場なんですね。木場潟は一周6.4キロ、歩い て1時間くらいでいい運動になります。桜の咲いている時期は一眼レフや周辺機器、三脚も担いで行くんですが、その時は、立ち止まっては写真を撮るので、運 動とはいい難くなってしまいます」

 ちなみに牧田さん、この度開通したばかりの北陸新幹線でいらしたそうですよ! いいなぁ。ちょっとばかり乗り鉄の私としてはとってもうらやましく感じてしまいました。

山口さん「では、判定をお願いします。……白でしょうかね」

森村先生「山内さんの句は個人的に感じるところの多い句でした。私も自転車のペダルを踏んでいる時に自分の年齢を感じることがあって、以前『老いを知るペダ ルを押すや梅咲きて』という句を作っていたんです。牧田さんの句を聞くと、きっと誰でも、カップルで歩いている風景を思い浮かべるのではないでしょうか。 それで『分か去れや後ろ髪引く花の影』という本句取りを作りました。分か去れは分かれ道のこと、花の影は一緒に歩いている女性の影のことを指しています。 それからもう一つ『帰り道声なき花の声が追う』。帰り道、分かれ道まで来て、男性の方が女性の背中に、声に出さずにそう言葉をかけるわけです」

 と、ここまで自由句部門4組。会場はほんとに、熱気にむせ返りそう。水分を補給しないと、とペットボトルのお茶をごくりと飲みました。さぁ、戦いは終盤へ。市長賞2句と森村誠一賞の行方も次回にもつれ込みます。どうぞお楽しみに。

 また、前回&前々回同様、皆様方の発言は、省略したり端折ったりしておりますの。その点、どうぞご了承くださいますようお願いいたします。

 

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