みなさんこんにちは。斎藤牧子です。

 熱海は起雲閣にて行われている写真俳句ストーリーコンテスト、熱海の梅か桜をモチーフにした課題句の部門は、ただいま審査進行中です!

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 一組目が終わり、次の対戦は、紅が静岡県駿東郡の成川和子さん、そして白が同じ駿東郡から小宮里さんと相成りました。お互い、それぞれの俳句とそれにまつわるストーリーを発表しあいます。

成川さん「『来し方は窓に映りし桜花』 三島に日本大学ができたとき、学生さんの服装は、貫一お宮の貫一のような黒い学生服とマントでした。知り合った学生さんと熱海の糸川沿いを散歩した折、話し込んだ喫茶店があったことを思い出しながら、写真を撮って俳句を作りました」

小宮さん「『俗の世を凡に暮らして梅を観に』 これまで世の中の大きな流れに取り込まれたり、時には喜びや哀しみがあったりしながら、その日その日を暮らし、流れに流されるようにして過ごしてきました。80を過ぎて、平凡な毎日の幸せを噛み締めています」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA このお二人、大の親友同士なんですって。同じコンテストに応募して、揃って入選されて、しかも同じ組で対決するなんて(対戦相手は当日クジで決めるんです)、よっぽど深い縁で結ばれているんですねぇ。

 そして判定の時間となります。結構難しいなぁ。お話しされたストーリーも興味深いものでしたし……どっちにしよう。

山口さん「ではみなさん、判定をどうぞ! あ、これは難しいですね。……僅差で紅、成川さんの勝ちですね。おめでとうございます」

 それから特別審査員の方からお言葉を頂きます。

 観光協会長の中島さん「私は俳句にはそう詳しくないのですが、小宮さんがおっしゃった、平凡な毎日が本当に幸せだという言葉をしみじみと噛み締めました。成川さんの方も、当時の喫茶店の情景が浮かんでくるようで、とても心に残りました」

 森村先生には、本句取りをお願いしました。

森村先生「成川さんの俳句は、時間をよく表現していると思いました。これを本句取りしまして、『来し方や窓に渦巻く花吹雪』。原句は静かな静の世界を謳っていましたので、私の句は「渦巻く」動の世界にしてみました。小宮さんの句からは、私は食事の中でも特に蕎麦を食べるときに人生を感じるのですが、そこから『人生の重荷おろして蕎麦の客』という句を作りました。さらに原句に近づいて、『俗の世の重荷おろして観梅に』。原句がいいと、それだけ本句取りをしようという刺激を受けます。どちらもいい俳句でした」

 森村先生ってば、私がただただ感心することしかできないでいる間にも、そうやって句の意味を汲み取ったり、本句取りを考えていらっしゃったのですねぇ。

山口さん「三組目は紅が神奈川県横浜市から幸崎真喜さん、白が静岡県三島市から高安利幸さんの対決です」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA幸崎さん「『梅園に紅白の波競い咲く』 梅園を訪れたのは、熱海に泊り、前日の雨が上がった午前中のことでした。梅を見ると祖母のことを思い出します。梅園の花々はあまりに美しく、花を愛でた祖母の気持ちとひとつになったような気がしました」

高安さん「『母と聞く梅が香今も風の中』 30数年前に母と梅園を訪れました。過ぎた日々は親孝行とは無縁のものでしたが、私と同年輩の方が母親らしき人と歩いているのを見ると、もう一度母と話したかったと感じます。けれど今はただ、その時の梅の香りを風の中に聞くことしかできません」

 そして、対決となります。判定まで、もう少し。どっちにしようかしら。ほんとに迷う…。

山口さん「あ、今回も半々くらいですね。どちらかしら……。白、高安さんの勝ちです」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA観光建設部長の出野さん「私も俳句はあまり知らないのですが、高安さんの30年前のお母さんの思い出の句はたいへん心に沁みました。幸崎さんの句は香りの沸き立つような写真と句で、また私ども観光の立場としては、宿泊までして梅園に来ていただいたことに、感謝の気持ちでいっぱいです」

森村先生「この二句は本句取りをするのがとても難しかった。句が深いんですよ。でも幸崎さんの句には、今瞬間的にひらめいたものがあります。『梅園に紅白ありて勝負なし』。高安さんの句には、何かの折に、例えば豆を煮る匂いやご飯を炊く匂いに母を連想することがありますよね。けれども梅の香りに母を考えることはあまり例がありません。そういう意味では、とても心に残る俳句でした。本句取りは、まだ中途半端ですが『母と聞く香りや今も……』の後はまだ出てきません。すみません」

 先生ったら、顔まで恐縮そうにしておっしゃるんですもの。そのおかげで会場がとっても和みました。

OLYMPUS DIGITAL CAMERA 次の対戦は、紅が熱海市の杉山公宏さん、白が熱海市の古田凛さんです。

杉山さん「『老いらくの恋や夕べの花枝垂れ』 熱海の糸川に満開の桜が美しく夕陽に映えていました。視線を下に転じると、静かに枝を垂らしている、こちらも満開の桜が目に入ります。これぞまさしく老いらくの恋、80歳になった私の心情であると、染み入るようにそう思いました」

古田さん「『一抹の侘び心あり梅に雨』 まだ春になりきらない冷たい雨の日に梅園に行きました。すると、梅園は晴天と違う趣きがありました。とくに雨の枝垂れ梅は、晴天の時とまったく異なっていて、一抹の侘しさが胸に響いてきました。その心を素直に詠みました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA山口さん「どうやら枝垂れ桜に枝垂れ梅、そして恋と侘び心という対決になりましたね。それではみなさん、判定をお願いします」

 あら、ほんとだ。山口さん、鋭い指摘。恋に侘び心かぁ、どっちも心にぐっと来るものがあるなぁ、と悩んでしまいます。会場のみなさんはどう思っているのかしら、と目を上げたら、ちょっと向こうの方に座っていたえりちゃんと目が合いました。えりちゃんもどちらにしようか迷ってるみたい。

山口さん「では、判定をお願いします。どちらかしら。……白、でしょうかね」

 そして、森村先生から講評と本句取りを頂きました。

森村先生「どちらも恋の俳句ですね。それぞれ艶があって、ロマンティックで、素晴らしかったと思います。古田さんの句からは『街角に君を待たせて梅に雨』 杉山さんの句にはきっと、みなさん思い出を呼び起こされたのではないでしょうか。これから刺激を受けて『その恋や昨日のごとき花枝垂れ』と詠みました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA山口さん「では、課題句最終組の5組目ですが、紅ブロック熱海市の吉川宏司さんは本日欠席ですので、私が代読をいたします。『糸川の流れに任せ花筏』 海辺まで散歩に出る途中、糸川沿いに落ちたあたみ桜の花びらを見て、この句が浮かびました。我々の先人たちは、四季折々の風景と様を、日本語という美しい言葉と俳句という独自の表現方法で伝え残してきたのではないでしょうか。これを次の世代に伝えていければと願います」

 白ブロックは静岡県沼津市から林田諄さんです。

林田さん「『梅が香に熱海芸妓の白うなじ』 写真は、芸妓さんが梅の花の下を通りかかっている様子です。白いうなじが艶っぽくて、梅の香りと共に香ってくるように感じました。おりしも近くに芭蕉の句碑がありましたので、その上句を拝借して、熱海の早春の一景を詠みました」

OLYMPUS DIGITAL CAMERA山口さん「では、判定をお願いいたします。えっと、……白ですかね。では白の林田さん、おめでとうございます」

森村先生「吉川さんの句からは『糸川や(あるいは、糸川に)人生任せ花筏』と本句取りしました。また、花筏の他の名前で流英というのがあります。流英の方は花びらがびっしりと詰まっていて、花筏の方は隙間があるのですが、それも含めて、花筏に身を任せている様をうたったのではないでしょうか。それからまた、広島の原爆の後に、死体が筏になって流れている人筏の風景がありましたが、そのことを思い出したくらい、この句から強い刺激を受けました。林田さんの方は、とても艶やかな句だと感じ入ったのですが、本句取りはまだできていません。すみません」

 ここまでが課題句部門。前回同様、みなさま方のご発言は、かなり端折ってずいぶん省略しておりますので、その点をどうぞご了承ください。おっしゃっていらしたことの本意が汲み取れているといいのですが……。

 さて、ここまでみなさんの美しい俳句とすてきなストーリーで、ずいぶんと楽しませてもらった気分になっています。でも、まだまだ続くんですよ! 次は自由句部門。日本全国からいろいろな梅と桜が集まりました。

でも、その様子はまた次回。楽しみにしていてくださいね!

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