写真俳句の制作過程3

最初に俳句が生まれた場合

 この場合は、俳句に合う場面を探すことになる。俳句や季語に合うような場面がないときは、俳句や季語そのものを変えてもよい。だが、その場合でも、なるべくならばその句の精神や運命は変えたくない。

6516 たとえば雪のない環境で雪を詠んだときはどうするか。雪の季節までは待てない。雪国へ出かけて行く時間はない。その場合は〃借景〃という手がある。他人の写真を借りたのでは意味がない。写真俳句は写真も俳句も自前でなければならない。雪を連想させるような被写体、たとえば除雪車、雪除け、白熊などの画像を配する。そのような被写体すら得られないときは、画像そのものを撮影する。借景に自分が工夫したオリジナルの画像を添えれば、借景そのものがオリジナルとなる。たとえば雪国の豪雪の要素を伝えるテレビ画面や新聞などの画像を借景に添える。

 自作の実例に次のような句がある。

 雪害の地に詫びつつも雪見酒

 俳句、写真同時進行の場合もある。シャッターを切りながら、一瞬閃(ひらめ)いた句想は、忘れやすい。そのような場合に備えて、テープレコーダーを携行している。これはまだ磨かれない原石である。五七五音にとらわれず、そのとき閃いた文言や表現を片端から吹き込む。後刻、拡大した画像と向かい合いながら、テープに吹き込んだ句想が生きてくる。俳句には文字で詠んだ場合と、表音の印象が異なる場合が少なくない。

 漢字は象形文字である。意味を知らなくとも、その文字の象形からなんとなくイメージがつかめる。アルファベットにはできない芸当である。それだけに象形に頼りすぎるきらいがある。文字面はよくとも、表音してみると雰囲気が損なわれるというケースが少なくない。

俳句、写真同時進行の場合は表音が仕上げをしてくれる。テープに句想を録音しておくのは、単に情報としてだけではなく、表音さ れた句界を保存しておくためである。

 たとえば、

 韃靼(だったん)の馬たてがみや冬怒涛(ふゆどとう) 角川春樹

 海に出て木枯し帰るところなし 山口誓子

 などの先行名句は表音して、初めて冬の日本海の轟(とどろ)きや、冬の海を吹き渡る木枯しの音が聞こえてくる。

5881 私の場合、下句が決まらない場合が多いが、稀には中句と下句が先に出て、上句がなかなか決まらないこともある。そのような場合は『歳時記』を繙(ひもと)く。『歳時記』を見ている間に、おのずから上の句が煮つまってくる。

 『歳時記』からヒントを得て、自分で季語を発明してもよい。『歳時記』は先行名句の結晶であるが、俳句の『バイブル』でもなければ、『六法全書』でもない。事実、作者別に『歳時記』の季語は異なることがある。いずれは写真俳句の『歳時記』ができるかもしれない

森村誠一「写真俳句の愉しみ 四季の彩り」(スパイス刊)より

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