写真俳句の制作過程2

下五は俳句の運命を決定する

 私の場合、上五と中七の十二音が先に出て、まとめの下五が出ないことがある。そのようなときは五七に止どめて、下五をブランクにしておく。下五次第で五七が生きるときと死ぬ場合がある。また下五によって五七の配置や、言葉そのものが変わることもある。

 一例を挙げれば、読者から募集した写真俳句(*注)の中で、選考に当たった富士真奈美氏、高橋春男氏、そして私の三人の票を集め、第一席となった千葉の山田利行氏作、

炎天下驢馬ゆっくりと地雷源

38

 は下五によって、のどかな光景が衝撃などんでん返しを打たれる。下五次第によって、その俳句の運命が変わる好例である。

 この句界となった場所は、現実に地雷源である必要はない。地雷が撤去された、あるいはまったく地雷と無関係の場所であってもよい。馬上うららかに揺られている間に眠気をもよおす。馬の蹄が一歩踏み誤れば木っ端微塵という句境が、下の五音によって圧倒的な緊迫感を持つ。

 刺激を受けて、類句が浮かんだ。

 馬眠り蹄の下は地雷源

 この句によって、私は「馬眠り」という季語を得た。

 同じような例として、「これがまあつひの栖」は、雪が五尺降り積もらなければならず、「そこにあるすすきが遠い」のは「檻の中」からであり、「目に青葉山ほととぎす」を締めるものは、なんといっても「初鰹」である。

4439 このように下五は俳句の運命を決定、あるいは変えてしまう。たった五音の運命であるだけに、慎重を期さなければならない。俳句にとって推敲が重要なファクターであるゆえんである。言葉の配置を替えるだけで、俳句の性格ががらりと変わってしまう。それだけに安易な推敲は危険である。

 俳句は十七文字という表現の制限があるだけに技巧的であり、いろいろな約束事が多い。俳句入門に際して、まずその約束事から学ぶのは試行錯誤の回り道を節約(ショートカット)するというメリットはあるが、同時に文法から入った言葉、特に外国語のように表現に制約を受けて、自由奔放な発想を妨げられる虞がある。とにかく文法は後まわしにして、五七五にまとめてみる。それが俳句、特に写真俳句の秘訣である。

 写真をじっくりと見ながら、最初の五七五をじっくりと推敲する。たとえば「これがまあつひの栖か砂嵐」としてみよう。どうも目に砂が入って、俳句を詠む環境ではない。森の中では薄暗い。街の中ではうるさくてせせこましい。雪三尺や七尺では浅すぎるか深すぎる。そして「雪五尺」にぴたりとおさまるというような具合である。

 これが一茶の時代にカメラがあったとすれば、初めから雪景色が句境として撮影されているので、砂や森や街を遠まわりする手間は省ける。

…2005年12月刊行「写真俳句のすすめ」(スパイス)における作品募集
(現在募集は行われておりません)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

森村誠一「写真俳句の愉しみ 四季の彩り」(スパイス刊)より

第4回コンテスト結果発表

熱海写真俳句撮詠物語

お気軽にお問い合わせください。
〒413-0032 熱海市梅園町11-19-A303
電話 050-7577-4862 (Fax共)
お問い合せフォーム

ピックアップ記事

  1. 2017-03- (2)
    平成29年(2017)3月句会投稿作品発表 平成29年の3月句会は、20日(月)開…
  2. 2017-02- (4)
    平成29年の2月句会は、20日(月)開催されました。投稿者数6名、総投稿作品数25句、句会出席者4名…
  3. 2017-01- (2)
      平成29年の1月句会は、16日(月)開催されました。投稿者数9名、総投稿作品数35句、句会出席…
ページ上部へ戻る